20年以上前、ゲームセンターへ通い格闘ゲームと出会った頃のお話し。
今回は第三話、前回からの続きです。
屈辱的な惨敗を期し、俺はリベンジに燃えていた。
日曜日の午前中、開店直後の50へ出向く。
休みの朝なら人も少ないはず。
人気のないうちにCPU戦で練習だ。
思った通り、開店直後の50は人気が少なかった。
ちらほらと筐体に人はいるが、2セットあるKOFの筐体にいるのは1一人だけ。
知らない人が練習している。
1セットはまるまる空いていた。
店の奥の両替機で、500円玉を全部50円に両替する。
昨日の雪辱を晴らすには練習して強くなるしかない。
ケチケチなんてしてられない。
(500円は、当時月の小遣いの半分)
両替機から最短距離で筐体に座る。
「よし、やるぞ」
50円を投入。
深呼吸し、手をほぐす。
まずは、アーケードならではのスティックレバーになれなければ。
CPU戦を着実にこなしていく。
一戦、二戦と勝ち進む中、店内には人が増え、賑わってきた。
俺がプレイしてる筐体に、コインが投入される音がした。
コインが筐体内へ落ちる音と、電子音がピロンッと鳴る。
ここで、早くも乱入者だ。
乱入者の登場に一気に緊張した。
「乱入者がいない時間帯を狙って、こんな開店直後にいるのに・・・」
そうは言っても、対戦は当然のこと。
対戦に勝つために練習しているんだ。
乱入者が使用キャラクターを選んでいる。
「テリー?」
そう、またテリーだ。
対戦台の反対側は見えない。
まさか同じ人ではないだろう。
テリーは人気があり、テリーを持ちキャラする人は多かった。
「ふっ! パワーチャージ!」
見覚えのある連続技。
そして、試合展開。
「パワーゲイザー!」
先日と同じ試合内容に愕然とした。
テリー一人に、俺の持ちキャラ三人はあっと言う間に負けてしまった。
また完封された。
まさか、テリー使いは皆同じ事をしてくるのか?
納得いかない内容に不満はあるが、俺は負けたので一度席を立った。
順番待ちで後ろに並んでいる人がいたら、負けた俺は邪魔になるからだ。
席を離れた際、相手を確認した。
対戦相手は知らない人だ。
俺を負かしたその相手は、横に座る誰かと会話しながら、俺から勝ち取ったCPU戦を戦っている。
CPU戦ではテリーではなく、他のキャラクターを一人目にしていた。
テリー以外、あまり強そうではない。
似たようなことをされたけど、昨日の相手ではなかった。
気を取り直して、50円を投入する。
(リベンジしてやる)
今度は俺が乱入者だ。
キャラクターを選び、対戦がはじまる。
またテリーが一番手。
そして・・・・・
「ふっ! パワーチャージ!」
「パワーゲイザー!」
画面端までお手玉されて、何もできないままやられてしまう。
アーケードデビューした俺と、この対戦相手とは腕に雲泥の差があった。
しかし、当時の俺は実力の差など、まったくわからないままがむしゃらに乱入した。
練習用にと奮発した500円をあっと言う間になくなっていく。
ただただ、パワーチャージの餌食になる俺。
実力差がありすぎて、わかっていても攻撃が防げない。
そして、最後の50円も消えた。
お金がなくなって、席を立ち、店をでるために対戦相手の横を通り過ぎた。
この時、対戦相手の横に座っている男が見えた。
(昨日のテリー使いだ!)
たまたまテリー使いがいた訳ではなかった。
同一人物に俺は負かされていた。
けど、ゲームをプレイしているのは別人。
テリー使いは、隣で画面を見ている。
座っている人とは知り合いのようで、画面を眺めながらずっとしゃべっている。
意味がわからなかった。
困惑する俺に気づき、チラチラと俺を見てくるテリー使い。
テリーを意識している訳ではないだろうが、そいつは黒い帽子をかぶっていた。
乱入者が来た。
「お、またカモがきた」
テリー使いは笑いながら、今までしゃべっていた人と席を変わった。
そう、テリー使いは、乱入の時だけ交代し勝つと席をどいて、仲間にCPU戦をやらせていたのだ。
しかも
「こいつもよええなあ。はい、頂き!」
対戦相手をバカにしながら例のパワーチャージで一方的に勝っていく。
まだKOFに詳しくなかった俺では、テリーが何をしているのかわからなかった。
少しあとになって知ることだが、KOF97テリーの
「ふっ! パワーチャージ」は、いわゆる永久コンボと呼ばれるもの。
ゲーム内のバグを利用したもので、ゲームセンターによっては禁止行為になり、トラブルの原因になりやすいものだった。
しかし、この場の俺には想像もつかない。
はっきりわかったのは、このテリー使いは、わざと初心者を狙っているという事だ。
この後も、わざわざ一人で練習している初心者を狙い、乱入しては例の永久コンボを使っていた。
永久コンボなど使わなくても、相手の方が弱いのはわかっているのに。
わざと一方的な試合を見せつけていた。
これがいわゆる”初心者狩り”だった。
しかも、バグ技を利用した悪質なタイプ。
俺のゲーセンデビューは、KOF97テリーの永久コンボと、
初心者狩りによって狩られてしまったのだ。
別の日に50へ通っても、例のテリー使いは仲間と一緒にいた。
本人がいなくても、仲間が呼んでくるのか、すぐにテリー使いが来て乱入してくる。
正真正銘、初心者の俺は、カモとして認識され狙われたのだ。
ゲームをはじめればすぐに乱入され練習することもできず、少ない小遣いも底を尽きた。
相手は倍ぐらいの年齢の大人たち、いつも複数人でつるんでいる。
一人で来て、まだ中学生だった俺は文句も言えない。
KOFをやるのが楽しみで通っていたのに、ゲーセン50からは次第に足が遠のき、ついに全く通わなくなってしまった。
ゲーセン50から姿を消した俺は、数週間後、ある中古ゲームショップにいた。
店内の片隅にある、KOFの筐体の前に。
ゲームセンターの思い出④ ただ、勝つために! KOF97(1997年)へ つづく